看護におけるタッチング ~なぜ、マッサージではなくてタッチングなのか? ~

「メディカル・タッチとマッサージは何が違うのでしょうか?」とよく質問を受けることがあります。触れる技術というと多くの人がマッサージを思い浮かべます。メディカル・タッチは、タッチングやタッチケアと呼ばれるケア技術の一つですが、マッサージとは大きく異なる点があります。どこが違うのかというと、まず、身体に働きかける場所が違います。そして、ケアを行う目的も違います。

メディカル・タッチとマッサージの働きかける場所の違い

マッサージは身体の深いところにある筋肉を刺激します。「痛気持ちいい」と感じる触れ方です。メディカル・タッチは、身体の表面にある皮膚に働きかけます。皮膚にある感覚受容器を刺激して脳からリラックスを促すことが目的です。皮膚に働きかけるので、羽のように軽いタッチが特徴です。「こんなに軽くていいんですか?」と驚かれる方も多いですが、軽すぎるとくすぐったく感じることもあるので、効果的に行うためには触れ方が大切です。

メディカル・タッチとマッサージの目的の違い

メディカル・タッチは、優しく触れることで、不安や緊張、抑うつ気分をやわらげてリラックスを促すことが目的です。この『軽いタッチ』が、患者さんに安らぎをもたらすために、重要なポイントなのです。また、メディカル・タッチには患者さんとのコミュニケーションを促すという目的もあります。

マッサージは、筋肉の張りやコリを改善して身体の疲れをとることが目的で行われることが多いです。

患者さんのストレスをやわらげるメディカル・タッチ

私が緩和ケア病棟で、患者さんにタッチングをしていると「夜、眠れないんです」「これから先、どうなるのか、、、?不安です」と何も聞いていないのに患者さんの方から自然とお話をされることがよくあります。多くの患者さんは、病気や治療によるストレスを抱えています。メディカル・タッチは、患者さんの抱える不安や緊張、抑うつなどの精神的苦痛をやわらげて、心に安らぎをもたらうことが目的です。

ストレスが軽減されることで、睡眠の質が向上したり、痛みがやわらぐこともあります。また、治療に意欲的になるなこともあります。私自身、タッチングを行うことで「夜、ぐっすり眠れました」「気持ちが楽になりました」といった患者さんの声を幾度となく聞いてきました。

ストレスを和らげるのに「力」は必要ない

メディカル・タッチは、不安や緊張、抑うつなど患者さんのストレスをやわらげることが目的なので、マッサージのようにグイグイもんだり、凝り固まった筋肉をほぐす必要はありません。触覚にアプローチして脳に心地よい刺激を届けて、脳からリラックスを促します。

皮膚にアプローチするので、マッサージよりも刺激が少なく、高齢者の方や終末期のがん患者さんなど、重篤な患者さんにも実践できます。

タッチングは看護技術の一つ

患者さんのストレスをやわらげることは、治療にもいい影響をもたらしたり、より良い療養環境を提供するために欠かせない要素です。メディカル・タッチは、普段の看護で患者さんに心地よい触れ方ができるようになることを目指しています。日常のケアにメディカル・タッチを取り入れることで、普段の看護の手が安心感をもたらす心地よい手に変わります。ほんの少しの時間でも患者さんに安楽な時間を提供することができます。

メディカル・タッチはマッサージとは違う、看護に特化した触れるケアなのです。

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この記事を書いている人

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見谷 貴代

看護師/アイグレー合同会社副代表 アロマセラピストから看護師になり、緩和ケア病棟や高齢者施設で5,000人の患者にタッチングを実践。病院や高齢者施設、製薬会社、企業などで研修や講演を実施。大学でも非常勤講師として活躍している。